暁ができるまで

技術の継承の作品として

この暁 -あかつき- は、現代的な家の雰囲気にどのようにして古代の技術を馴染ませるかを課題にして製作した作品です。

明治より続き現代に生きる甲冑師として、古代の職人が生み出し、伝えてきた幾多の技術を引き継ぎ、次に伝えるという一つの使命があると思っています。

これを果たすためには、2つの方法があると考えました。

一つは古代の技術を踏襲し、なるべく緻密に再現すること。技術そのままに、できる限り忠実に再現することで、そのままの形で残す方法。古代の甲冑の凛とした佇まいをそのまま表現することができます。

ただ、現代には現代にしかない雰囲気があり、古代の技術そのままでは違和感を覚えると雄山は考えます。

美術館で古代の調度品を見た時に感じる、空間とそぐわない浮き出たような感覚は、現代の雰囲気と馴染んでいないから出るものなのかなと。

そこで出会ったもう一つのやり方が、古代の技術を現代の雰囲気に載せて伝えることです。

技術の継承の作品として

古代の技術の踏襲として

通常の五月人形から少し踏み出したこだわりの技術として、今回は「笠じころ」という、一見地味で伝わりづらい技術を採用することにしました。

「笠じころ」とは、名前の通り笠のような独特な平べったい形状を持っていることが特徴です。これは室町時代に多く見られ、太刀を振り回す戦いにおいてよく活用された形で、笠のように横に広がり、折り返した部分(吹き返しと言います)は潰れたように急な曲がり方になっています。

笠じころには、通常の兜にはない独特の色気があります。それは一見、戦いに不向きに見える全体の表面積を大きくする試みやなぜそこまで吹返を寝かす必要があったのかといった疑問を抱かせつつも、甲冑として成立し当時でも普及していた事実と、それを考案した職人の意図を汲みきれない面白さから生まれるのではないかと思っています。

そうした、歴史のもつ奥深く色褪せない存在感を作品に反映させることを求め、笠じころの形状を採用しました。

古代の技術の踏襲として

現代的な雰囲気として

笠じころという古典的な技術と現代の雰囲気を上手に繋げるためには、時代の流れを盛り込むことができる作品が理想的と考えました。
室町時代の技術、江戸時代の表現、近代的な節句人形としての進化、そして現代の飾り方・・・。これらを意識的に組み込み、一つの作品として成立させることを目指したのがこの「暁」です。

室町期の笠じころに加え、鹿の革に古代の絵柄を漆で図柄を描く印伝という江戸時代の技法や、節句人形として文化が隆盛した近代のデザイン的な鍬形、そして図柄の色使いと兜を載せる芯木に現代的な特徴を持たせました。

芯木は猪の目 -いのめ- というハートマークにくり抜かれたデザインを採用しています。兜がのる位置を少し高めに設定することで、笠しころの広がりと、下の猪の目のデザインが目に入るよう調整しています。

現代的な雰囲気として

まとめ

暁は、五月人形の職人のこれからを考える上でとても大切な作品に仕上がりました。時代的表現を重ねることで、現代の雰囲気を壊さないよう、細心の注意を払って構成した作品です。

ぜひご覧ください。 

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