YAYA 銀ちゃんができるまで
「YAYA 銀ちゃん」の物語
子供が大きくなったときに昔を思い出すような人形を...
これまで壹三は、コミカルでわんぱくな子供たちの元気いっぱいの一場面を切り取ることをコンセ プトに人形を製作してきました。モデルとしてイメージしてきたのは、わんぱくに野山を駆け回る、 5-7歳くらいの子供たちです。
私(原型師:ryoji)は壹三に入社してからこれまで、壹三の開発した人形の製造を担当しており、 壹三の作品を作り続けている中で、私は美術館や個展壹三でありながら自分らしさのある人形 を作りたいと、構想を練ってきました。を訪れたり図録を集めるなどして、様々な人形に触れるこ とで、エッセンスを溜め込んできました。
そんなある時、接客をしていて、壹三の作品が自身のお子さんに似ているとおっしゃっていただく機会がありました。まだ、生まれて間もないお子様でしたが、確かに表情やほっぺの感じがどこと なく壹三の作品に似ており、私も一緒になって驚いたのを覚えています。
そのことがなんとなく頭に残り、お子様に似ている人形であれば愛着が湧くだろうし、人形を大事に飾っていただける、また子供が大きくなった時にエピソードとして思い出すことができ、家族の会話を一つ増やすきっかけになるんじゃないかと考えました。
そこで、ハイハイを卒業して二本足で立って歩くことに面白さを覚えた赤ちゃんのイメージを持って、お子様が大きくなった時に昔を振り返ることができるような人形を作ろうと、企画が始まりまし た。
頼もしく成長していく子供の姿を作品に
テーマは「頼もしさ」
子供が初めて立った時、言葉を発した時、スプーンを持って自分でご飯を食べるようになった時、子供の成長を実感して頼もしさを覚え、とても嬉しくなります。それは少しずつ自立していく子供を見守る親御さんならではの特権です。
そうした嬉し懐かしい思い出は、人を穏やかにしてくれます。お子様が大きくなった時でも五月の子供の日を迎えると、そんな穏やかな気持ちにさせてくれるきっかけに、この人形がなれるといいなと思い、自立して初めて自分を主張するようになったようなシーンをイメージして製作しました。
作品のこだわりや細部の技術のご紹介
くりくりの特徴的なおめめ
壹三の人形の目はこれまで、描き目と言って、絵筆で一つずつ描く技法を主流にしていました。 そんな中、YAYAでは今回入れ目といい、アクリル製の眼を入れ込むことにしました。銀ちゃんは、甲冑の糸の縹色と薄茶色に合わせて、グレーの目を採用しています。
ハイハイを卒業して二本足で立って歩くことに面白さを覚えた赤ちゃんのイメージが基になっているのですが、赤ちゃんを人形で表現しようとすると描き目だとコミカルになりすぎてしまうところがあったのです。
特徴的なのが、これまでの日本人形と異なり、目がくりくりして大きいこと。サイズと顔のバランスを自然にするために、試行錯誤を重ねました。目が小さいと不自然だし、大きすぎるとエイリアンみたく人間味がなくなる。また眼球も、白眼が大きいと愛くるしいけど、黒目が大きすぎると獣っぽくなってしまう。
上目遣いの目線にもこだわっています。子供は伝えたいことがある時、真っ直ぐに相手の目をみて話します。そのため、大人と目線を合わせようとすると必ず上目遣いになるのです。今回は自立して初めて自分を主張するようなシーンを思い描いているので、親御さんの目線に合うようにしています。
自立したバランスの取れた体
人形は体の構造に合わせて製作すると、バランスが取れて自立することができます。ご自身でも銀ちゃんのポーズを真似してみるとわかるかと思いますが、右手が前に出るので、右胸の筋肉 は盛り上がります。ただ左手は横に出ているため、背中側肩甲骨部分は左側がせり出すのです。右足は横に向いていて、左足の方に重心が乗っているため、お尻は左の方が出っぱります。
このようにバランスを整えると、多少頭が大きくても自立する人形になるのです。自立する頼もしさという要素を入れるために、ここは外せない要件でした。また頭が大きい分、首の長さは自然に見えるようにするために、太さと長さの微調整を繰り返しました。頭身のバランスも2頭身とか2.5 頭身も試しましたが、最終的に3頭身に落ち着き、YAYAのボディは完成します。
着ている甲冑も本格的に
兜は、阿古陀形と言って通常の半円の鉢と比べて、頭頂部が少し凹んだ形になっているのが特 徴です。頭頂部を凹ませることによって防御力が増したことや、兜を被った際の安定感などからこうした形が採用されたようです。阿古陀の凹ませたラインは、古代の甲冑師によっても様々で、より美しい曲線を求めてコレクターがいるほどです。
そんな阿古陀形の兜ですが、YAYAは少しデフォルメをした形で製作しました。 通常の阿古陀形をさらに潰して平らに近い形にすることで、YAYAの幼い印象に馴染ませたデザインにしています。
甲冑を彩る、糸の配色は「縹色々威」。縹色を基調に薄茶色を差した、配色になっています。
絵革には、「菊籬-きくまがき-」を採用しています。これは、鶴岡八幡宮に所蔵の硯の絵柄をベー スに、雄山がデザインしたオリジナルの絵柄になります。 菊の花の可愛らしさが銀ちゃんを引き立たせます。
物語の始まりを表現するような梱包
パッケージも作品に負けないように、YAYAの世界観が伝わるデザインを作ろうと企画をしました。プロトタイプが出来上がった段階で、お披露目をみたところ、小説のワンシーンを切り取ったかのような躍動感を感じました。
暑くなってきた初夏に遊ぶ子供、大人は禁制の遊び場だから、お母さんには入ってきてほしくないのだろうか、通せんぼしているのを見下ろす親のような気持ちになります。ここで1つパッケージのテーマとして決まったのは、本をイメージすること。
本を開けたら飛び出してくる一場面のような演出にしたいと、パッケージのデザインを始めることにしました。そこに「懐かしさ」を色で表現することで、YAYAのパッケージのデザインが出来上が ります。最後に表紙には、「丸ク円満ナル人生ヲ願フ」というメッセージを込め、「円満甲冑」とタイトルをつけました。
by パッケージ担当